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謎の死

ここは春雨棋院。囲碁のプロ達が対局を行うところだ。

そこで2人の棋士の間でこんな会話が交わされていた。
「アキラさん、今日もよろしく頼みましたよ。」
「くっ…」
「しかし、今連勝続きのあなたがまた私に負けるとなると、ファンの人はガッカリするでしょうねぇ。。はっはっは。」

2人は対局場へ向かった。
『ビーーー。』
対局開始のブザーが鳴った。

パチッ。アキラが初手を打った。
パチッ。続いて相手の棋士、三郎丸が二手目を打つ。
パチッ…、パチッ…、パチッ…、パチッ…。
二人はお互いに黙って打ち続けていた。
・・・

「…ありません」「ありがとうございました♪」
隣の対局者達が早くも対局を終えた。勝者のほうの棋士が対局結果を書きに行ったあと、アキラと三郎丸の対局の観戦をし始めた。
(…ふむふむ、三郎丸さんがリードしているみたい。アキラさん、不調なのかなぁ。
あ、アキラさんのこの手は…私が得意な場所かな♪)
図:アキラと三郎丸の碁盤。★の場所が今アキラが打った手。
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パチッ、パチッ、パチッ、パチッ、パチッ。。。
『ビーーーー。』
打ち掛けの時間となった。昼食のための休憩時間だ。

「さぁ、昼食の時間だ。アキラさん、お先に失礼するよ。」
「あぁ、はい」
三郎丸がその場を去っていった。

観戦していた棋士も昼食のため、その場を去った。

それから5分ぐらいしたその時!
「うっ…ぐわあああああああ!!」
三郎丸が突然苦しみだして倒れこんだ。
「大丈夫か!?しっかりしろ! …だめだ、反応がない! 救急車を呼んでください!」
突然の出来事に、棋士達がその場に集まってきた。
「一体どうしたんだ!? この人は三郎丸さんじゃないか! さっきまで元気でいたのに」
「…だめだ、これはもう死んでいるでしょう。警察も呼ばないと。。。」

この事態で、対局は中止となった。皆が動揺しているためだ。

そこで一人の棋士がある考えにふけっていた。
(これはもしかしたら殺人事件かも。。。 警察が到着するまで待っていたら犯人に証拠を隠滅されるかもしれないな。今のうち、事件を解明しないと!)
その棋士とは、先ほど三郎丸とアキラの対局を観戦していた女流棋士、流星鮎(ながれぼしあゆ)だ。

(えっと、まずはどうして倒れたのか調べないと。)
鮎はその時の状況を棋士達に尋ねて回った。
(ふむふむ。。。まとめてみると、三郎丸さんは昼食中に突然苦しみだして倒れた、と。そして食べていたものはサンドイッチかぁ。。。)


(三郎丸さんの持ち物を調べてみよう。)
「あ、ちょっと三郎丸さんの持ち物調べますねー」鮎は手袋をつけて三郎丸のポケットの中身を調べ始めた。

「え、よく死体にさわれるなぁ。。。女の子なのに」回りの棋士達は鮎の大胆な行動に驚いていた。
(うっ。。。)それを聞いた鮎の反応。

(・・・えっと持ち物は、ハンカチ、ティッシュ、財布、携帯電話、それに扇子かぁ。。。)
鮎は以上の持ち物をチェックしていた。
(。。。ん?これはどういうこと…?)

・・・・・・
・・・・・・
ジャラジャラジャラジャラ…
「犯人はやっぱりあなたのようですね、アキラさん!」
「えっ!? な、なに言ってるんだい。どうして僕が…」


さぁ、あなたは事件の真相がお分かりになりましたでしょうか?
囲碁を知ってる方は少し得かな。
解答編へ




















『ヒントは3つです。1つ目は被害者のある持ち物。2つ目は被害者の摂った昼食。そしてあなたが犯人であることを決定的にした3つ目のヒントは囲碁のルールです。
以上の事より答えはひとつです!』

「き、聞かせてもらおうじゃないか。君の推理を。。。」

『えっと、まずこの三郎丸さんの持ち物のハンカチ。綺麗に折りたたんでいて全く使った痕跡はありませんでした。』
鮎はハンカチを取り出した。ハンカチは綺麗な状態で、濡れた後もなかった。

「そ、それのどこがおかしいんだい?」

『つまり三郎丸さんは一度も手を洗わなかったという事です。あまり清潔ではなかったようですね。碁を打った後、手を洗わずにサンドイッチを食べたのですから。。。』

「・・・!!」

『サンドイッチは手でつかんで食べるものですね。そして三郎丸さんはサンドイッチを食べて苦しみだしました。でも、サンドイッチに毒が仕込まれているとは思えません。だって他の棋士は普通に食べていましたからね。
以上の事より考えられるのは、手に毒がついていた―――。ということです!』

「な、なるほど。。そういう想像も出来るわけだね。でも手に毒がついていたぐらいでどうして僕が犯人なんだい? 誰でも出来たんじゃないかい?」

『三郎丸さんは対局のあと、そのままロビーへ向かい、予めここの売店で購入しておいたサンドイッチをすぐ食べ始めたみたいです。今日の朝、アキラさんは三郎丸さんがサンドイッチを購入するところを見たんでしょうね。それでこの殺人計画を実行することが出来た、と。』

「だからどうして僕が犯人になるんだ! 他の誰かと接触したかもしれないだろ!」

『では証拠をお見せしましょう。』

「なに!?」

鮎は碁盤を見つめ出した。
『今、ここの碁盤の碁石を片付けられてる途中みたいですが、どうしてですか?』

「もう今日は対局中止なんだろ。だから片付けていただけだ。」

『ちょっと碁石を見させてもらいますね。』

「碁石に毒があるか調べるんだ? どうぞ、ご勝手に。でももし毒が塗られていても、僕が塗ったとは限られないだろ?」

『私が調べたいのは、あなたの碁石です♪』

「なにっ!!!?
・・・ふふふ。別にいいよ、碁笥の中を調べてくれて。」

『いや、その碁笥の中の碁石には毒はないでしょう。私が調べたいのはこの一つの碁石です♪』
鮎は三郎丸のアゲハマの碁石を指差した。アゲハマとは、囲んで取った相手の石の事である。

「…!!!!」

『その驚きようからすると、やはりこの碁石だけに毒が塗られているようですね。あなたはこの碁石に毒を盛り、それを三郎丸さんに取らせた。盤面でうまく取らすように誘導してね。』

鮎は碁盤に石を並べて実演してみせた。

『ほら、この盤面でこっち打って、こうなったでしょ? 私は対局の様子を見ていましたよ♪ この石は定石通り進むと必ず取られるんですよね。そして三郎丸さんも定石通り打ってきた、と。』
図:鮎が並べた進行。☆のところに白が打つと、その下の黒石が取られる。この黒石に毒が盛られていた。
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『さぁ、どうですか?アキラさん!!』

「…ありません…。」
『ありがとうございました♪』


謎の死 -完-

P.S.殺人の動機は、アキラがプロ入りするためのプロ試験で、対局相手に大金を渡して勝利を得ていた、という事が三郎丸に知られて脅しを受けていたから、とかそんな感じ。