Home>小説

電車トリック

語り手「この前ね、ある田舎の町で不思議な出来事があったんですよ。
電車の中での話なんですがね。

2人の友達同士が電車の中でかくれんぼをすることになったんです。
まぁ2人の名前はマコトとジュンにしましょう。
田舎だから乗客も少ないので、探しやすいかくれんぼです。

マコトが隠れる役で、ジュンが見つける役でした。
かくれんぼは電車の止まっている駅のホームからスタートしました。

・・・・・

「よーし、じゃあ先にかくれてるよー! ちゃんと目をつぶってろよー!」
マコトはホームから走って電車のある車両に乗り込んだ。

「…きゅーう、じゅーう! よーしダッシュ!」
ジュンは目を開けて電車の一番後ろの車両に乗り込んだ。

「うーん、どこだろ。」
キョロキョロ見回してもマコトは見つからない。

「ここの車両じゃなかったか。じゃあ次の駅についたら前の車両に移ろう。」

・・・・・

このかくれんぼのルールは、駅の一区間内だけ一つの車両を調べられる、
というようになっていました。
そしてこの電車は8両でした。つまり全部調べきるのに8駅分かかるということです。
また、隠れている場所は変更できないというものでした。

・・・・・

『舞の浜ー、舞の浜ー。
右側の扉が開きます。開きます扉にご注意下さい。』
次の駅に着いた。

「よし、では一つ前の車両に。」
ジュンは前の車両に移った。

「うーん、どこだ?」
ジュンはその車両の端から端まで歩いたが、マコトは見つからなかった。
「この車両にもいないのか。仕方ない、また次の駅で。」

『鈴ヶ原ー、鈴ヶ原ー。
吉原方面へお越しの方はお乗換え下さい。』

ジュンは前の車両に移った。
しかし、ここにもマコトの姿はなかった。

・・・・・

このようにジュンは次の駅に着いては、次の車両を調べる、というように繰り返していました。
しかし、一向にマコトの姿が見つかりませんでした。

そして調べるべき車両がついに残り1両になりました。

・・・・・

『不動滝ー、不動滝ー。
左側の扉が開きますご注意下さい。』

ジュンは電車の一番前の車両に移って、勢いよくマコトを探した。

「…。いない…。」

・・・・・

はい、こんな話です。
一体、マコトはどこに潜んでいたんでしょうね?
ジュンが見逃しただけかもしれないですね。
あなたにはこの謎が解けますか? ふぉっふぉっふぉ。」

↓解答編












『興味深く聞かせて頂きましたよ、今の話。
私がその謎を解き明かしてみせましょう。』

「む?」

『この話の中で気になったキーワードがいくつか出てきました。
まずは「田舎の町」や「右側の扉と左側の扉」という言葉です。
しかし考えてみると、田舎の町であっても、電車の線路は単線であったり
複線だったりするわけで、そして扉が開く方向も駅によって様々です。
よってこういう言葉は関係ないと考えられます。

次に「電車のある車両」という言葉。
トンチをきかして「電車がある車両」という意味でとらえることもできます。
マコトが乗り込んだのは、電車のオモチャが置いてある車両、というように。
でもそれは無茶な話なので却下です。

まぁこのように考えていたわけですが、話の中でどういう状況かが不確定である
言葉がたった一つだけありました。
きっとこれがその謎に結びつくのでしょう。』

「おぬし、なかなかやりよるわい。探偵か何かかい?」

『いいえ探偵ではないですよ。私はさすらいの旅人。
名前は語る程のものではないです。』

「よし、では謎解きの続きを聞かせておくれ」

『電車は8両ですよね。ジュンは8駅分移動したことになりました。
8駅って結構長いですよね。もしかしたら終点に着いたかもしれないですね。
でも電車って終点に着いてからでも折り返して進行します。
結局まぁ8駅分は進むことになるでしょう。

しかし、ここにヒントが隠されています。
折り返すと、電車の進行方向は逆になり、ある言葉が不確定になります。
それは…

「電車の一番前の車両」という言葉です。
これはどうやって前と後ろを判断しているのでしょうか?
それは電車が走る進行方向が前と判断しているということですね。
ということは、電車が折り返す前は一番前だった車両は、折り返すと一番後ろの車両となってしまいます。
ジュンは調べるべき車両が残り1両になったとき、電車の一番前の車両に移ったと聞きました。
もし、終点に着いて折り返した後だったとすると、その一番前の車両はもともとは一番後ろだったはずです。
そう、ジュンが最後に調べた「一番前の車両」は、最初に調べた8両目の車両だったのです。
ジュンの行動は不思議ですけどね。その話は後回しにして…。
どうして2両目から8両目に移動できたのかというと、 ルールは「駅の一区間だけ一つの車両を調べられる」というものだったので、 車両を移る時はドアが開いてからホームへ降り、その車両に乗り込むというものだったのでしょう。
そうなるとマコトは電車の1両目にいたということになります。

以上が謎解きです。
まぁジュンというのは、おじさんのことですよね?
なんでおじさんがあんなに行動しているジュンの事を細かく知っているかというと、おじさんがジュンだからです。
不思議な行動をとったのも、このトリック話を作るためですよね?』

「ふむふむ。合格じゃ。よくぞ、言葉のトリックを見破り、ワシの正体も明かしよった。
さすらいの旅人よ、探偵試験合格とする。」